大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(特わ)301号 判決

本籍

東京都中央区築地六丁目一一番地

住居

同都同区築地六丁目一二番五号

会社役員

池田直一

大正一二年一一月二六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、株式会社シロップ池田屋の代表取締役としてその経営に従事するかたわら、営利の目的で継続的に有価証券売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右有価証券売買を架空名義あるいは他人名義で行う等の方法により所得を秘匿したうえ、昭和六一年分の実際総所得金額が二億四一九一万一五四九円であった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六二年三月一六日、東京都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が一四八三万八五八〇円で、これに対する所得税額が三七九万一四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成元年押第三八七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億五六三〇万五三〇〇円と右申告税額との差額一億五二五一万三九〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  池田道哉及び池田知栄子の検察官に対する各供述調書

一  収税官作成の次の各調査書

1  有価証券売買益調査書

2  支払謝礼金調査書

3  支払利息調査書

4  雑費調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  押収してある六一年分の所得税の確定申告書等一袋(平成元年押第三八七号の1)、同六一年分収支内訳書一袋(同押号の2)

(法令の適用)

一  罰条

所得税法二三八条一、二項

一  刑種の選択

懲役刑と罰金刑の併科

一  労役場留置

刑法一八条

一  懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人が、有価証券売買の一部を他人名義で行う等の方法により有価証券売却益を秘匿して所得を過少に申告し、一億五二〇〇万円余の所得税をほ脱した事案である。そのほ脱額は高額であり、ほ脱率は九七・五パーセントと高率であること、犯行の動機に特段同情の余地はないこと、所得秘匿の手段、方法も取引名義を家族名義に分散させて課税要件に充たない取引を仮装するもので、計画的であること等の事情を考慮すると、犯情は悪質であり、被告人の刑責を軽く評価することはできない。しかし、被告人は、本件が発覚してからはほ脱の事実を全面的に認め、修正申告を行った上、本税、附帯税、地方税を完納して反省の意を表明していること、本件の税務調査後新たに迎えた税理士の指導の下に今後は適正な申告納税を行う姿勢を示していること、被告人には業務上過失傷害及び業務上過失致死による罰金刑の前科が二回あるほか前科がないことなど被告人に有利な事情も認められ、被告人の年齢、家庭の事情等をも併せ考えると、被告人に対しては、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおりの刑を量定した次第である。

(求刑 懲役一年二月及び罰金四五〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田輝明)

別紙1

修正損益計算書

池田直一

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

〈省略〉

別紙2

脱税額計算書

昭和61年分 池田直一

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例